水素用バルブを選定する際のポイント
高パフォーマンスな水素用バルブ:選定する際のポイント
Chuck Hayes、クリーン・エネルギー担当主席アプリケーション・エンジニア、スウェージロック
水素燃料は、モビリティ・ソリューションとして急速に普及しています。水素は、安全性、費用対効果、実用性、そして持続可能性を備えていることがわかっています。つまり、水素は輸送の未来にとって理想的なエネルギーなのです。
水素は輸送の未来にとって理想的なエネルギーなのです
水素が持つポテンシャルを十二分に引き出すには、水素自動車や水素充填インフラが数年から数十年にわたって漏れの無いパフォーマンスを発揮できるよう、高品質の材料を使用して設計・製造することが必要です。しかしながら、どんな部品でもいいというわけではありません。水素燃料の製造や取り扱いには独自の課題があるため、水素燃料システム全体にわたって、特定のパフォーマンス基準が部品に要求されることになります。
バルブ:車載システムや地上設備で水素の流れを制御する役割を担うバルブがその例です。水素に適したパフォーマンスを備えたバルブを選定するには、どうすればよいのでしょうか?以下にそのポイントをまとめました。
水素用バルブに高パフォーマンスが求められる理由とは
水素燃料システムのオペレーション条件は、本質的に厳しいものです。水素用バルブを選定する際は、以下の点を考慮してください:
- 圧力:水素を適切な密度で車載タンクに貯蔵するには、35~70 MPaの圧力を加える必要がある
- 応力および振動:高速、でこぼこ道、悪天候での走行にも耐えられるシステムであること
- 安全性:水素ステーションにおける充填は、一般消費者でも安全に行えること
- メンテナンス:メンテナンスの際に、再取り付けを容易に行うことができ、接続部から漏れが生じないこと
すべての水素用バルブは、上記の要件を満たすパフォーマンス・レベルを発揮する必要があります。水素用バルブには、接続部および締め切り/調節部において漏れが無く、水素アプリケーション特有のオペレーション条件に耐えられることが求められます。
水素の特徴とは
水素分子は自然界で最も小さいため、水素を封じ込めるのは容易ではありません。
水素システムでは、接続部から漏れが生じることは許されません。特に、エンド・ユーザーが燃料補給でディスペンサーを操作する際にガス漏れが生じると、安全上のリスクにつながりかねません。また、自動車や貯蔵システムにガス漏れが生じると、不経済でもあります。
さらに、水素分子は非常に小さいため、ステンレス鋼の品質が低い場合は内部に拡散するおそれがあります。この現象を 水素ぜい性 といいます。時間が経つにつれて、圧力によって材料に亀裂が生じ、水素を使用する際は深刻な問題となるおそれがあります。
水素用ボール・バルブ
ボール・バルブは、水素システムでは一般的な部品で、水素の流れを止める・流す・方向を切り替るために使用します。水素用のボール・バルブを選定する際は、耐摩耗性に優れたステム・シール・デザインを選びましょう。直接的な荷重構造を採用したトラニオン型ボールであれば、作動や締め切りのたびに漏れが生じることはありません。また、ボトム・ロード式ステム・デザインを採用したバルブを選ぶことで、ステムのブローアウトが生じる可能性が低減し、安全性を高めることができます。
選定にお悩みの場合は、バルブのサプライヤーにご相談ください。適切なボール・バルブは、システムのニーズに応じて、2方または3方タイプ、さまざまな取り付けオプション、幅広い流量係数に対応することができます。また、 水素アプリケーション専用継手 との適合性も調べましょう。
水素用ニードル・バルブ
ニードル・バルブは、流体の流量を細かく調節する際に使用します。水素アプリケーション用のニードル・バルブを選定する際は、慎重に考慮する必要があります。ニードル・バルブは、すべて金属製というのが一般的なことから、適切にシールするには相当な力が必要になります。この力によって、ニードル自体や場合によってはシートまで変形するおそれがあるため、危険が生じるとともに、メンテナンスにコストがかかります。また、そのような力が必要な場合、バルブの開閉に大型のエアー・アクチュエーターを使用する必要があり、完全に作動させるのに2分ほど要することがあります。
以上の点を考慮すると、繰り返し使用しても変形しにくい 高品質の316ステンレス鋼 製のニードル・バルブを選定することが重要です。また、すべてのニードル・バルブが一般的な水素アプリケーション(35/70 MPa)に適した圧力に対応しているわけではないことを念頭に置き、高い使用圧力に対応可能なニードル・バルブを選びましょう。また、ボール・バルブと同様に、他の水素用部品との適合性が必須です。
水素用逆止弁
水素充填システム内の水素用コンプレッサーにおいて、過剰な逆流を制御してエンド・ユーザーを保護するという重要な安全機能を果たすのが逆止弁です。一般的なアプリケーションに比べて、水素用逆止弁には対処すべきポイントがあります。
大半の逆止弁には、スプリングが組み込まれています。スプリングは、一般的に加工硬化処理を施した材料から作られていることから、高品質の316ステンレス鋼よりも水素ぜい性の影響を受けやすくなっています。また、自動車の燃料補給アプリケーションでは、バルブが温度や圧力の急激な変化にさらされることになるため、バルブのエラストマー・シールに大きな応力がかかります。以上の点を考慮すると、水素用コンプレッサーにはボール逆止弁が適しています。逆止弁についても、他の水素用部品との適合性が重要です。
***
水素モビリティ燃料市場が長期的に存続するか否かは、車両やインフラの安全性、信頼性、耐久性次第であると言っても過言ではありません。すべての水素システムに適した部品を選定することで、この技術が長期的にそのポテンシャルを最大限に発揮することが可能になります。
詳細に興味がございますか?スウェージロックは、水素アプリケーションに適したボール・バルブ、ニードル・バルブ、逆止弁のほか、より安全で信頼性の高い水素システムを構築するための部品を幅広く取り揃えています。スウェージロックの水素専門スタッフが、お客さまのニーズに合ったソリューションを提案します。
関連コラム
水素用途に適した継手の構造
水素アプリケーション向けに設計された継手を使用することで、燃料電池自動車のOEMやインフラ開発者は、安全かつ信頼性の高い燃料システムを実現することができます。
水素輸送の最前線で
スイス政府は、水素燃料電池自動車の改良とクリーンな移動手段の推進に努めています。今回は、その立役者ともいうべき最新の継手技術を紹介します。
導入事例:燃料電池ソリューション
燃料電池バス144台を動かす燃料供給システムをLuxfer社が生み出した背景には、協業に対するスウェージロックの真摯な姿勢と、EC-79認定取得に向けた献身がありました。 今回は、スウェージロック・マンチェスターの質の高いサポートによってイノベーションを加速させた、Luxfer社の事例を紹介します。