alert icon

Internet Explorer 8および9は、本ウェブサイトの動作確認環境の対象外となります。 その他のブラウザを使用してください。

メッセージを閉じる hide icon

分析計装システムで流体の状態を正しく表すサンプルを維持するためのヒント

分析計装

分析計装システムで流体の状態を正しく表すサンプルを維持するためのヒント

サンプル採取時におけるプロセス・ライン内の流体の状態を正しく表すタイムリーな分析結果を提供すること。これが分析計装(AI)システムの役割です。 分析計装システムの構成が原因で変質したサンプルが分析結果に影響を及ぼすようなことになれば、そのサンプルは流体の状態を正しく表しているとはいえず、分析結果はもはや無用の長物となってしまいます。 取出し口でサンプルを適切に採取していたとしても、以下のいずれかの条件にあてはまる場合は、サンプルが流体の状態を正しく表していない可能性があります:

  • たまり部(またはデッド・スペース)がプロセス制御システム内の不適切な場所にあり、そこから漏れ出た古いサンプルが新しいサンプルと混じり合う「静的な現象」が生じている
  • コンタミネーションまたは吸着によってサンプルが変質している
  • 相が部分的に変化して、化学物質のバランスが崩れている
  • サンプルが化学反応を起こしている

  • たまり部を理解する

    混合が起こる空間(ミキシング・ボリューム)とたまり部は異なることを理解しておきましょう。 独立した入口と出口を持つ容器(フィルターやノックアウト・ポットなど)のミキシング・ボリュームでは、流体は通常ゆっくりと通過します。 一方、たまり部は通常、端部がブロックされたT字配管に存在するため、流し出されることはありません(図1)。

    デッド・レッグの形状

    図1. たまり部がある構成。T字配管にたまっていた古いサンプルがメイン流路に漏れ出し、新しいサンプルを汚染します。

    たまり部があるコンポーネントの例としては、圧力計、トランスデューサー、ラボ・サンプリング・バルブ、圧力逃がし弁などが挙げられます。ミキシング・ボリュームから古いサンプルを流し出すのに必要な流速は計算で求めることができますが、たまり部の場合はできません。 たまり部にたまっていた古いサンプルの一部は、新しいサンプルと混ざって汚染するおそれがあります。

    たまり部は、結果的には何の影響を及ぼすことなく消散するかもしれません。しかし、影響を及ぼす可能性も捨て切れません。 結果は誰も予測することはできないのです。 一般的に、直径に対する長さの割合が大きくなるほど、たまり部が問題となる可能性が高くなります。 さらに、分析ラインの流量が少ないと、たまり部が影響する度合いが大きくなります。 圧力計におけるたまり部の容積を10 cm3 とした場合、流量が多ければあまり影響しませんが、少ない流量(30 cm3/minなど)に加えて不適切な場所に存在していると、アプリケーション全体に影響するおそれがあります。

    以下はたまり部に関する一般的なガイドラインです:

  • できるだけ流量を多くする
  • たまり部を最小化または排除できるコンポーネントを選定する
  • コンポーネントを取り付ける際に、エンド・コネクションによってたまり部の長さが最小になるように図る
  • たまり部をバイパス・ループへ移動させることで、たまり部があるコンポーネントの数を分析ラインからできるだけ減らし、分析器への流れが活発な状態を維持する
  • T字配管や2方タイプのボール・バルブを3方タイプのボール・バルブに置き換える

  • 5つのデッド・レッグの図

     

    図2. この構成には5つのたまり部があり、サンプルを汚染するおそれがあります。 デッド・レッグを排除する方法

     

    図3. 図2の構成に、設計上の改善(たまり部を排除する、分析器の読み取り値に影響を与えない場所にたまり部を移動するなど)を加えています。

     

    大半のプロセス制御システムでは、たまり部があるコンポーネントの数を分析ラインから減らすことで、分析器への流れが活発な状態を維持することができます。 たまり部があるコンポーネントをバイパス・ループに配置しても、本来の機能は変わりません。 バイパス・ループ(またはファスト・ループ)は、プロセス・ラインに戻ることで、ループ内の流れを比較的高速化することが可能になります。 ループ内のある時点で、流れの一部を分析器に送ります。 図2のシステムには、5つのたまり部が存在します。 図3は、図2の構成に以下の改善を加えています:

    • 2つの圧力計をバイパス・ループに移動させる
    • 1つの圧力計を取り外す(代替品は使用しない)
    • 校正用ガスの注入口を流路選択システムに移動させる
    • ラボ・サンプルは、フィルターを手前に取り付けたフロー・ループから採取するようにする

    複数の流体が流路選択システムを経由して同じ分析器に流れている場合は、できるだけバイパスまたはリターン・ライン内の流路選択システムの手前に、たまり部があるコンポーネントを配置してください。流路間で流体が混合してコンタミネーションが生じるのを防止することができます。 これは、多くの表面積を有するコンポーネント(フィルター)、またはエラストマーのような透過性のある材料を使用しているコンポーネントについても同様です。 例えば、流路選択システムの後にフィルターをひとつ配置するのではなく、ラインごとにフィルターを用意し、流路選択システムの手前に設置することをお勧めします。 同様に、流路選択システムの後にT字配管でラボ・サンプル・ポートを配置するのもお勧めしません。T字配管はたまり部を生み、流路間で流体が混合してコンタミネーションが生じるおそれがあるためです。

    バイパス・ループ図

     

    図4. ラボ・サンプル・ポートは、流路選択システムの手前のバイパス・ループに設置しています。 これで、サンプル流路が共有しているラインにたまり部が生じることはありません。

     

    理想的な構成は、図4をご覧ください。流路選択システムの手前で、バイパス・ループ上にラボ・サンプル・ポートを配置しています。なお、バイパス・ループはサンプル・ラインごとに設けています。 ラボ・サンプル・ポート、圧力計、その他のたまり部はバイパス・ループ上に配置することが可能です。 また図4の構成は、1つの流路が分析器に流れている間も、他の流路はそれぞれのバイパス・ループを流れ続けるため、サンプルの流れを維持できるという点も優れています。 流路選択システムの後に安全に配置できるコンポーネントには、高品質のレギュレーター、締め切り用バルブ、逆止弁、流量計などが挙げられます。 液体サンプルの場合、分析器を通る際の圧力降下がわずかであれば、たまり部があるコンポーネント(圧力計など)を分析器の後に配置しても構いません。

    2個のブロック・バルブと1個のブリード・バルブからなる ダブル・ブロック/ブリード(DBB)  でベントする構成は、業界で広く使用されています。その理由は、流路間で流体が混合してコンタミネーションが生じるのを防止できるためです。 複数の流路がある場合は、DBB構成を使用することをお勧めします。 DBB構成は、すべての流路選択システムの基本となります。

    コンポーネントの配置はもちろん、コンポーネントの選定もプロセス制御システムの設計においては重要となるポイントです。 デッド・スペースの量は、コンポーネントごとに異なります。 システムの設計時は、断面図をチェックしてデッド・スペースが無いか調べましょう。 また、バルブやコンポーネントのアセンブリーを通る流路がスムーズになるように、そして方向が急に変化することの無いように注意して、圧力降下を防止してください。

    漏れと透過

    漏れや透過は、分圧が低い方で発生します。 漏れや透過がシステム上問題になるかどうかを判断するには、まずサンプルおよびシステム外の大気について、その組成と絶対圧力を調べてください。 そこから分圧を決定します。 例えば、システム流体が100 psiaで100%窒素の場合、窒素の分圧は100 psiaになります。 そして大気が仮に15 psiaで窒素80%、酸素20%とすると、分圧は窒素12 psia、酸素3 psiaになります。 これらの条件を考えると、酸素がシステム内に流入し、窒素がシステム外に流出することになります。 システム圧力が200 psia、1000 psia、またはそれ以上に上昇しても、酸素の分圧はシステムの内部よりも外部の方が高いため、大気中の酸素はシステムに流入することになります。

    透過は常に問題になるわけではありません。 アプリケーションによっては、わずかな量の酸素であれば、サンプルに流入しても構いません。 透過が問題となるおそれがある場合は、システムの設計時にOリング、エラストマー、PTFEの代わりに、可能であればステンレス鋼や金属同士のシールを使用するか、サンプリング調整システムまたはシステムの他の部分を、窒素雰囲気のボックスに格納してください。

    空気作動式バルブの中には、その設計上、サンプルと作動エアーとの間に漏れや透過が生じるものがあります。 ミニチュア・モジュラー・バルブのように、バルブとアクチュエーターが一体化しているものもあります。 言い換えれば、バルブ・ボディとアクチュエーターとは同じブロック内にあり、両者を分離しているのはひとつのシール(Oリングなど)のみということになります。 つまり、この唯一のシールに不具合が生じると、エアーの分子がサンプル内に漏れるか、またはサンプルの分子がエアー内に流入するおそれがあります。 このような漏れが生じると、分析値の読み取り値が狂うばかりか、最悪の場合は火災や爆発の原因となることもあります。 バルブとアクチュエーターが一体になっている場合は、二重シールのバルブと、エアーやプロセスの漏れを安全に逃がすことができるベント・エアー・ギャップを設けるなどの安全対策が必要です(図5)。

    ダブル・ブロック/ブリード・バルブ

    図5. この構成では、ダブル・ブロック/ブリード・バルブ、二重シール、ベント・エアー・ギャップで、作動エアーが流体中に漏れ出さないように図っています。

    吸着

    吸着とは、分子が固体表面(チューブ内面など)に引き寄せられて付着することを指します。 窒素や酸素といった「永久ガス」の分子は固体表面に付着しますが、簡単に脱離します。 一方で水や硫化水素などの分子は、チューブに引き寄せられたまま離れません。 このような粘着性分子がサンプル中に存在してチューブ内面に付着していたとしても、分析器の読み取り値に反映されるまでにしばらく時間がかかります。

    吸着の問題は、チューブ内を流体で満たせば解決できると考えるひともいますが、これは誤りです。 仮に、日光に当たるなどしてチューブの温度が上昇するとします。 温度の上昇に伴ってエネルギー量が増した分子がチューブ壁から離れ、分析器の読み取り値に影響を与える可能性があります。

    測定する分子量がサンプルの100 ppm以上を占めている場合、吸着はそれほど問題にはならないと思われます。 しかし、測定する分子量が100 ppmを下回る場合は、吸着に対処する必要があります。 チューブ内面に電解研磨仕上げを行うか、PTFEライニングを使用すれば、吸着率をいくらか改善することができます。 また、シリコン・ライニング・チューブを使用する方法もあります。 シリコン・ライニング・チューブは、非常に薄いシリコン被膜をチューブ内面に施しています。 安価な製品ではありませんが、大幅な改善を見込むことができます。 なお、シリコン・ライニング・チューブも柔軟性がありますが、最小曲げ半径は大きくなります。

    相の保存

    流体の状態を正しく表すサンプルを維持するには、サンプルの部分的な相変化を防止してください。 システム内の温度や圧力に応じて、分子は異なる相(固体、液体、気体、またはその混合物)に変化します。 相の変化が始まるポイントは、分子ごとに異なります。これを示したのが、横軸を温度、縦軸を圧力とする「状態図」です。 図6は、水の組成を示しています。 実線は、相の境界を示します。

    温度、圧力変化に伴う相図

    図6. 水の相変化図。水が固体、液体、気体に変化するポイントを示しています。

    分析サンプルは通常、複数の分子から構成されています。 サンプルの組成、すなわち、何%が分子Aで何%が分子Bなのかを見極めることが重要です。

    サンプルがすべて液体または気体のままであれば、組成は変わりません。 しかし、サンプルの相が部分的に変化すると、組成が変化します。 図7は、分子混合物の状態図を示しています。 液相と気相との間のゾーンでは2つの相が混在し、組成が異なります。 言い換えれば、サンプルは2つの異なる組成に分留しているため、分析器は元の組成が何であるかを判断できなくなります。

    混合分子の場合の相図

    図7. 混合性流体の状態図

    分析エンジニアや技術者は、分析システム全体を通じて、すべてのサンプルが相変化しないように圧力と温度を維持することが求められます。 ガス・サンプルの場合は、レギュレーターで減圧するのが最もシンプルな解決策です。 さらに、必要であれば、加熱保温バンドル・チューブでサンプル・ラインを加熱して高温に維持することができます。 レギュレーターおよび加熱保温バンドル・チューブはいずれも、設置やメンテナンスを簡単に行うことができます。

    液体サンプルの場合は、もう少し手間がかかります。 ポンプで圧力を上げ、必要に応じて冷却装置を取り付けてください。 ポンプや冷却装置の設置やメンテナンスは簡単とはいえませんが、どうしても使用しなければならない場合もあります。

    最後に

    流体の状態を正しく表すサンプルを維持するのは容易ではありません。 サンプルが流体の状態を正しく表していなくても、分析計装システムが警告してくれるわけでもありません。 問題を発見するには、サンプル・システムが機能しない場合があることをしっかりと理解しておくことです。 幸いにも、こういった問題は回避または是正することができます。 主な是正処置は、以下の通りです:

    • コンポーネントの設計とその限界を把握する(たまり部、デッド・スペース、作動エアーの漏れ)
    • 流体システムのプロバイダーに問い合わせる(例:バルブの最高使用圧力、断面図、パージ性能データ)
    • プロセス制御システム内の適切な場所にコンポーネントを配置する(例:バイパス・ループ内、流路選択システムの前後)
    • 吸着が生じるかを見極め、問題になるかを計算によって判断する(分圧に基づく)
    • 漏れ、透過、吸着を防止できる材料や設計を把握する
    • 状態図に基づき、相の保存に適した圧力と温度を算出して維持する

    工場や施設内の分析計装システムで、流体の状態を正しく表すサンプルを維持できていますか? スウェージロックが実施しているトレーニング・コース「サンプリング・システムの問題解決およびメンテナンス(SSM)」では、一般的なサンプリング・システムにおけるエラーのトラブルシューティングを学ぶことができます。 詳細につきましては、 最寄りのスウェージロック指定販売会社 までお問い合わせください。

    サンプリング・システム・トレーニングの詳細を見る

     

    Images © 2013 “Industrial Sampling Systems

    関連コラム

    分析器試料採取システムを調べるエンジニア

    サンプリング・システム: プロセス分析器の精度にまつわる8つの課題

    サンプリング・システムの専門家であり、一般産業向けトレーニング講師としても長い経験を持つTony Waters氏が、プロセス分析器の精度にまつわる8つの課題を特定・解決する方法を、自らの経験に基づき紹介します。特にプラント・マネージャーや設計エンジニアの方は是非ご一読ください。