プロセス分析器の精度にまつわる8つの課題
サンプリング・システム:プロセス分析器の精度にまつわる8つの課題
Tony Waters、サンプリング・システム専門家/トレーニング講師
サンプリング・システムは、プラント内で最も複雑な部分であるといっても過言ではないでしょう。 システムに組み込まれているさまざまなコンポーネントとプロセスが正しく連動しなければ、プロセス流路の状態を表す分析測定値を得ることはできません。 しかも、この測定結果がプラント制御の方向性を左右するため、測定値には正確性と適時性の両方が求められることになります。 プラントのエンジニアや技術者の方は、サンプリング・システムには細心の注意を払う必要があることをよくご存じだと思います。 システムを構成する要素の1つひとつが、プロセス分析器の精度に影響を与える可能性があるのです。 今回は、スウェージロックのフィールド・エンジニアが提言する、システムの精度に影響を及ぼす8つの課題を紹介します。皆さまが使用している分析器の信頼性向上にお役立ていただければ幸いです。
分析器の精度に対する影響
サンプリング・システムの設計に不備があると、以下のポイントに影響が出るため、適切なサンプルを得ることができなくなるおそれがあります:
- 代表性: 設計に欠陥があると、プロセスの状態を正確に代表していないサンプルが採取されるおそれがあるばかりか、プロセス流体の化学成分が思いもよらないものに変質する可能性もあります。 目的に合った測定を行うためにも、システムには代表的なサンプルが必要です。
- 適時性: サンプルの採取から分析器による測定値の取得までの時間遅れが大きかった場合、流体が無駄になったり、生産エラーを修正するための再処理に多大なコストがかかったりするなどのリスクが発生しかねません。 なお、業界標準のレスポンス・タイム(応答時間)は1分とされています。
- 適合性: サンプルの温度、圧力、流量、状態などがプロセス分析器の要件と適合しない場合、分析器の不具合や測定精度の低下が生じるおそれがあります。 正確な分析結果が得られれば、危険が潜むオペレーション状況を顕在化させて、安全なプラント環境を維持することができます。
課題の特定と解決
課題1: 取出し口の位置が不適切
取出し口の位置を決める際は、慎重に行ってください。 目的のひとつは、時間遅れの防止です。 低流量のプロセス配管に取出し口を配置すると、プロセス流体に生じた変化が分析結果に反映されるまでの時間は長くなります。 混合が発生する容積になっている部分(タワーの底部、タンク、ドラムなど)も、大きな時間遅れの原因となります。 また、システムを設計する際は、サンプルが十分に混合される場所を選んでください。例を挙げると、ポンプの吐出し、フロー・オリフィス、パイプ・エルボーなどによって発生する乱流の下流部分です。
課題2: プローブの誤用
プローブを使ってサンプルを採取する場合、プローブがプロセス配管の中央1/3に届き、代表的なサンプルを採取するのに十分な長さがあることが理想的です。 プロセス配管の中央に近い部分は、それ以外の部分よりも流れが速いため、結果の適時性も高くなります。 ただし、プローブが共鳴振動の影響を受けないようにするため、最大許容長さを常に計算してください。 配管径のわずか15%相当の長さを挿入するだけで十分なケースもあります。 容積が大きくなると時間遅れを招くことになるため、必要以上に大きい径のプローブを使用しないでください。 プローブではなくノズルのみを使用した場合、サンプル・システムの容積が非常に大きくなるため、大幅な時間遅れにつながるおそれがあります。
課題3: フィールド・ステーションの設計が不適切
ガス・サンプルの場合、圧力ができるだけ速く降下するように設計します(理想は10~15 psig。システム設計上問題なければ5 psigの場合も)。 高圧ガスは分子の密度が高いと移動スピードが遅くなるため、時間遅れが発生します。 凝縮はガス・プロセス分析器では対応できないケースが多く、またサンプルの代表性を損なう原因でもあるため回避することが望まれます。 低圧を維持すれば、作業者や技術者の安全性も維持できることになります。
フィールド・ステーションのレギュレーターでサンプルの圧力を下げることで、分析器への流れを高速化することができます。
課題4: ファスト・ループを使用しない
液体サンプルを気化する場合、ファスト・ループを使用するか、気化レギュレーターの一次側をバイパスさせる必要があります。 わずかな量の液体でも気化してガスになると体積が非常に大きくなり、液体側のサンプルの流れは非常に遅くなり、時間遅れが生じることになります。 ファスト・ループを設けなかった場合、レギュレーターの一次側の配管容積は、液体の流れが非常に遅いにも関わらず100 mL以上にもなり、数時間単位の遅れが発生するおそれがあります。
課題5: たまり部
たまり部内の古いサンプルの分子は、徐々に排出されて新しいサンプルと混じり合うため、サンプルの代表性が損なわれることになります。 サンプル・ラインのティーまたはクロス部分は、流れが発生していないポートがひとつでもあれば、たまり部となります。 たまり部の例としては、圧力計やスイッチ、圧力逃がし弁、ラボ用のサンプル取出し口などが挙げられます。 低濃度の流路から高濃度の流路へ切り替えると、たまり部が原因で分析結果の精度が低下する可能性はさらに高くなります。 低流量の場合、たまり部はさらに厄介な問題となります。 分析器に直結するライン上にたまり部が存在する場合は、位置を変更するか除去してください。
課題6: クロス型流路でのコンタミネーション
3方タイプ・バルブ1つだけでは、校正用流体とサンプルを完全に切り替えることはできません。 この場合、校正用流体がバルブ・シートから漏れ出してサンプルを汚染するおそれがあります。あるいは、プロセス流路のサンプルが校正用流体に漏れ出す可能性の方が高いかもしれません。 いずれにせよ分析の精度は損なわれることになります。 この場合、ダブル・ブロック/ブリード(DBB)・バルブが適しています。ブロックされているポートから漏れが生じても、サンプルではなくブリード・ラインまたはベント・ラインに流れるためです。
課題7: 温度や圧力が不適切
サンプルの相の変化には注意しましょう。相が部分的に変化すると厄介です。 混合相のサンプルに代表性はありませんし、おそらく分析器との適合性もないと思われます。 サンプルの相が変化しているかどうかは、簡単に確かめることができます。 ソフトウェア・プログラムを使って状態図を生成し、システムの化学成分を確認してください。 一般的には、ガス・サンプルは(凝縮しないよう)露点以上に、液体サンプルは(軽い成分が気化しないよう)泡立ち点以下にそれぞれ維持する必要があります。 配管中に加熱していない部分が少しでもあると温度低下と凝縮が生じるおそれがあるため、配管を加熱する場合は全体を加熱してください。 ガスの場合は露点の約20℃以上に維持しましょう。
課題8: サンプルの調整が不適切
サンプル調整システムでは、ガス・サンプルから液体を除去してください。これで、プロセス分析器の不具合や分析結果の精度低下を防止することができます。 ガス・サンプルに含まれる大きな液滴は、重力(ノックアウト・ポットまたはフォールバック・チューブを利用)または慣性(動的分離装置またはサイクロンを利用)によって除去することができます。 また、微細な滴がエアロゾル状態で浮遊している場合は、コアレッサが必要です。 ただし、コアレッサでは大きな滴を除去できない点には十分注意してください。 さらに流れのスピードが速すぎると、小さな滴がコアレッサのエレメントを通過してしまい、除去することができません。 コアレッサを通過したサンプルは飽和状態になります。つまり、露点に近付くことになるため、再び凝縮するおそれが高まります。 この場合、温度を上げるか圧力を下げることによって露点に達しないようにしましょう。 ニードル・バルブを使用すると、圧力を下げることができます。
サンプリング・システムにおいて、プロセス分析器の精度に影響を及ぼす危険要因の特定・解決に関する詳細につきましては、スウェージロックの サンプリング・システム・トレーニング・コース を受講していただくか、『Industrial Sampling Systems』をお読みください。同書は、スウェージロックのトレーニングで教材として使用されています。詳細につきましては、 最寄りのスウェージロック指定販売会社 までお問い合わせください。
関連コラム
ブロック・バルブで一般産業用流体システムを遮断する方法
一般産業用流体システムのメンテナンスを行う際は、プラントの安全を確保するため、事前にラインを遮断する必要があります。流体システム・ラインを安全に遮断できる方法のひとつは、2個のブロック・バルブを並べて取り付ける方法です。今回は、システムに最適な構成を設計する方法を紹介します。
サンプリング・システムを改善する10個のポイント
分析計装システムの運用管理は、容易なことではありません。 一貫した結果を得ることは、ベテランのエンジニアでさえ苦労する場合があります。 今回は、サンプリング・システムを改善するためのポイントを紹介します。
安全性に優れた一般産業用流体システムを構築するための7つのヒント
一般産業用流体システムの設計において、プラントの安全性は常に最優先に考えるべきものです。 今回は、安全上のリスク低減とシステムのアップタイム(稼働時間)維持に取り組むエンジニアと技術者の方々に役立つ、流体システム設計のヒントを紹介します。