レギュレーターの供給圧力影響(SPE)に対処する
レギュレーターの供給圧力影響(SPE)に対処する
Wouter Pronk、シニアフィールドエンジニア、Swagelok
流体システムのオペレーションを担当している方であれば、ガス・ボンベを供給源とするプロセス・ラインで、これといった理由も無く 圧力レギュレーター の二次側圧力が上昇する現象に遭遇したことがあるのではないでしょうか。 ボンベが空になると、レギュレーターの一次側圧力は下がります。 このとき、ベテラン技術者も含め大半の方が二次側圧力も同様に低下すると思い込みがちですが、実際には二次側圧力は上昇します。 これは、供給圧力影響(SPE)による現象です。
供給圧力影響(SPE)とは
供給圧力影響(SPE)(別名:一次側の依存性)とは、「一次側圧力(供給圧力)の変化によって生じる二次側圧力の変化」を指します。 供給圧力影響(SPE)が存在している場合、一次側圧力と二次側圧力の変化は反比例します。 つまり、一次側圧力が低下すると二次側圧力は上昇し、逆に一次側圧力が上昇すると二次側圧力は低下します。
レギュレーターの供給圧力影響(SPE)は、メーカーによって公表されています。 通常供給圧力影響(SPE)は、一次側圧力の変化に対する二次側圧力の変化の比率または割合で表します。 例えば、供給圧力影響(SPE)が1:100または1%のレギュレーターでは、一次側圧力が100 psi下がるごとに二次側圧力は1 psi上昇します。 レギュレーターの二次側圧力が変化する度合いは、以下の式で推定することができます:
∆P(二次側圧力)= ∆P(一次側圧力)x SPE
スプリング・ロード式レギュレーターに組み込まれている、アンバランス型ポペットとバランス型ポペットの設計上の違い
レギュレーターの中でも特に普及しているのは、スプリング・ロード式 のタイプです。 このレギュレーターは、スプリングによる負荷が感知エレメント(ダイヤフラムまたはピストン)に加わることで、オリフィスに対するポペットの動きを制御して二次側圧力を調整します。
アンバランス型ポペットの場合は、一次側圧力がポペットを押し上げます。 この際ポペットに加わる圧力は、シート部に対する圧力と同等です。 ここで一次側圧力が低下するとポペットを押し上げる力が弱まり、力が上回った設定スプリングにポペットが押されてシートからわずかに離れるため、二次側圧力が上昇します。 それでも二次側圧力は設定スプリングの力に釣り合うほど大きくないため、前とは異なる位置でポペットが閉じることになります。 その結果、供給圧力影響(SPE)によって二次側圧力が上昇します。
レギュレーターは力のバランスで作動するため、供給圧力影響(SPE)の度合いは、圧力が作用するポペットのエリアと感知エリアの比率に応じて決まります。 つまり、感知エリアが大きくポペットが小さいレギュレーターは供給圧力影響(SPE)が低く、感知エリアが小さくポペットが大きいレギュレーターは供給圧力影響(SPE)が高くなります。
供給圧力影響(SPE)がアンバランス型ポペットに与える効果を調べるには、一次側圧力を徐々に低下させてください。 例えば、一次側圧力が1,160 psig(80 bar)のとき、二次側圧力が43.5 psig(3 bar)とします。 しかし、一次側圧力が870 psig(60 bar)に下がると、二次側圧力は53.7 psig(3.7 bar)に上昇します。 一次側圧力はアンバランス型ポペットの表面全体に作用するため、一次側圧力が変動すると力は大きく変化し、レギュレーター内での力のバランスが大きく変わることになります。
供給圧力影響(SPE)を抑えるには、バランス型ポペットのレギュレーターを使用するのが一般的です。 中でも大きいポペットを使用することが多い大流量のアプリケーションでは、バランス型ポペットのレギュレーターが適しています。 バランス型ポペットのレギュレーターでは、オリフィスを通ってポペット下部に到達する二次側圧力が低いため、高い一次側圧力の影響を受けるエリアを最小限に抑えることができます。 なお、オリフィスはポペット内を縦に貫通し、ポペットの下部ステムに装着したOリングでシールされています。 供給圧力影響(SPE)の観点から見れば、圧力が作用するエリアがかなり小さいため、一次側圧力が変化しても、力はほとんど変化しません。
供給圧力影響(SPE)がバランス型ポペットのレギュレーターに与える効果を調べるには、前述のアンバランス型ポペットと同様、一次側圧力を徐々に低下させてください。 先ほどと同じように、一次側圧力が1,160 psig(80 bar)のとき、二次側圧力が43.5 psig(3 bar)とします。 しかし、一次側圧力が870 psig(60 bar)に下がっても、二次側圧力は46.4 psig(3.2 bar)までしか上昇しません。 さらに一次側圧力を725 psig(50 bar)に下げても、二次側圧力は46.4 psig(3.2 bar)にとどまります。
アンバランス型ポペットのレギュレーターよりも、バランス型ポペットのレギュレーターの方が、二次側圧力への影響を抑えられることがおわかりいただけたでしょうか。 ロックアップを低減することができる、つまりポペットが急に閉じた際に二次側圧力が急激に上昇するのを回避することができるという点も、バランス型ポペットのレギュレーターを使用するメリットです。
単独レギュレーターと二段式レギュレーターの違い
低流量のアプリケーション(分析計装システムなど)であれば、供給圧力影響(SPE)を最小限に抑える方法として、二段式の減圧も有効です。この方法では、単独レギュレーターを2つ使用するか、2つの単独レギュレーターを1つのアセンブリーとして組み合わせます。各レギュレーターだけでも一次側圧力の変化をある程度は抑えることができますが、2つ組み合わせることで、二次側圧力を元の設定値にかなり近づけることができます。
二段式レギュレーターを設置した際の二次側圧力の変化量を計算するには、一次側圧力の変化量に、各レギュレーターの供給圧力影響(SPE)を乗じてください。 これは以下の式で表すことができます:
∆P(二次側圧力)= ∆P(一次側圧力) x SPE1 x SPE2
前述のように、供給圧力影響(SPE)によって一次側圧力の変化量と二次側圧力の変化量は反比例します。 一段目のレギュレーターでは、ガス・ボンベが空になって一次側圧力が低下すると、二次側圧力が上昇します。 この上昇した圧力が二段目のレギュレーターに流入すると、二段目レギュレーターの二次側圧力が低下します。 一段目のレギュレーターでは、一次側圧力が大幅に変化しても二次側圧力はあまり変化しません。 よって、二段目のレギュレーターは一段目からの一次側圧力のわずかな変化に反応するだけで、二次側圧力の低下も最小限に抑えることができます。
KCYシリーズ圧力レギュレーター を例に、供給圧力影響(SPE)を見てみましょう。 ガス・ボンベが空になって2,500 psig(172 bar)から500 psig(34 bar)に圧力が下がったとします。 ここで各レギュレーターの供給圧力影響(SPE)は1%と仮定します。 一次側圧力が2,000 psig(137 bar)低下すると、一段目のレギュレーターの二次側圧力は20 psig(1.3 bar)上昇します。 このとき、二段目のレギュレーターの二次側圧力は、0.20 psig(0.01 bar)しか下がりません。 通常のレギュレーターよりも、二次側圧力に対する影響を大幅に抑えられることがわかります。
供給圧力影響(SPE)を抑えるという点では、バランス型ポペットの単独レギュレーターよりも、二段式レギュレーターの方が優れています。 同じ二次側圧力下で複数のオペレーションに1つのガス・ボンベで対応するアプリケーションでは、いずれのレギュレーターも十分に機能します。
しかし、圧力が異なる複数のオペレーションに1つのガス・ボンベで対応するアプリケーションでは、2つの単独レギュレーターによる二段式の圧力調整システムをおすすめします。 この場合、一段目のレギュレーターをガス・ボンベの近くに配置し、二段目のレギュレーターを各プロセス・ライン上に配置します。 供給圧力影響(SPE)を最小限に抑えるため、ガス供給源に二段式レギュレーターを配置し、ユース・ポイントに単独レギュレーターを配置するケースがよく見られますが、これは三段式の調整に相当する過剰なセットアップであり、大半のアプリケーションでは必要ありません。 二段式の調整を行うことで、供給圧力影響(SPE)を最小限に抑えつつコストも削減することができます。
最後に
供給圧力影響(SPE)は、レギュレーターでガス・ボンベからの二次側圧力を調整する際には付き物の現象です。 一次側圧力が変化すると、二次側圧力も変化します。供給圧力影響(SPE)を最小限に抑えるには、バランス型ポペットの単独レギュレーターか、二段式レギュレーターを使用することをおすすめします(一部のアプリケーションを除く)。 ただし、圧力が異なる複数のオペレーションに1つのボンベで対応する場合は、複数の単独レギュレーターを使用し、それぞれガス供給源の近くとプロセス・ライン上に配置してください。
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