プロセス分析計を理解する:ラマン分光分析計
分析計のタイプを理解する:ラマン分光分析計
Mike Strobel、ビジネス開発担当マネジャー、スウェージロック
分析計を理解する
- ラマン分光分析計
近日リリース予定 - 赤外線/紫外線分析計
- プロセス密度計
- プロセス酸素計
- プロセス水分計
化学プラントや製油所では、プロセス分析 を正確に行うことが求められます。プロセス条件や流体組成を検証するスキルが、最適なレベルの効率や利益を維持する鍵を握っていると言っても過言ではありません。プロセス流体に関する見識を深めることで、流体を適切に制御して最適化することが可能になります。
こうした理由から、プロセス分析計は今日のプラントにおいては欠かせないツールです。しかし、プロセス分析計には複数のタイプが存在し、それぞれ独自の利点があります。
そこで、さまざまなタイプの分析計、およびそれぞれに適したアプリケーションに関するコラム記事をシリーズでお届けします。初回は、ラマン分光分析計を取り上げます。ラマン分光分析計は、ラマン分光法を使用して流体の化学組成に関する詳細な情報を提供する、比較的新しいタイプのプロセス分析計です。
ラマン分光分析計とその原理
ラマン・サンプル分析のイメージ図
- サンプルにレーザーを照射する
- 光学フィルターでレイリー散乱光を除去する
- ラマン散乱光を検出器で測定する
- ラマン・フィンガープリントから測定値を求める
ラマン分析は、サンプル(液体、固体、ガス)の化学組成に関する詳細な情報を提供する非破壊プロセスです。可視、近赤外、近紫外の範囲の単色レーザーを、未知の組成のサンプルに照射します。光が物質の分子を励起し、分子を基底状態から仮想励起状態へ移行させます。
このプロセスにおいて、光の弾性散乱および非弾性散乱が生じます。弾性散乱(レイリー散乱)は、放射された光が入射光と同量のエネルギーを持ちます。非弾性散乱(ラマン散乱)には、2つの現象があります:ひとつは、仮想励起状態に励起された分子が、光から吸収したエネルギーの一部を保持する場合です。そのため、放出された散乱光は入射光よりもわずかにエネルギーが小さいため、波長が長くなります。もうひとつは、すでに高い仮想励起状態に励起されている分子が、基底状態に戻るときに生じる現象です。放出された光はエネルギーを得るため、波長が短くなります。
光散乱プロセスによって生成されるラマン・スペクトルは、サンプルのラマン・フィンガープリントとも呼ばれています。指紋と同様に、ラマン・フィンガープリントはひとつとして同じものはなく、測定アプリケーション用に生成された数学的モデルに基づいて値が割り当てられます。モデルは研究室で作成することも可能ですが、大半のメーカーは、理論的なモデルを生成することで、実装時間の短縮を図っています。注目すべきは、ラマン測定の精度を高めるには、慎重なモデリングおよびモデルの適切な適用が欠かせないという点です。
ラマン分光分析計の利点
ラマン分光法は、プロセスの健全性を継続的にモニタリングするのに効果的です。各段階で化学組成を確認することができるため、プロセスが最適の状態で稼動していることを確認することができます。適切に設計されたラマン・システムを使用することで、分析結果に基づいてほぼ瞬時に意思決定を行うことができるため、手直しや無駄を最小限に抑えることが可能です。また、ラマン分光法で完成品や完成間近の製品をモニタリングすることで、規格外製品の再加工を最小限に抑えることもできます。
ラマン分光分析計は、サンプルの調整がほぼ不要なため、スタートアップ時および継続的なメンテナンスに要するコストを削減することができます。
さらに、以下のようなオペレーション上のメリットもあります:
- サンプルの調整がほぼ不要なため、スタートアップ時および継続的なメンテナンスに要するコストを削減することが可能
- サンプル移送時間が最小限で済むため、時間遅れが大幅に減少し、ほぼリアルタイムで分析を行うことが可能
- 手動校正は不要
- 使用期間全般で、メンテナンスの頻度を最小限に抑えることができるため、その他の作業に労力を集中することが可能
ラマン分光分析計の欠点
ラマン分光分析計の主な欠点は、測定結果がモデルに依存していることです。ガス混合物の成分は、線形回帰分析によって簡単に特定できる傾向がありますが、液体分析となると非常に困難です。液体分析のモデルの開発には数か月から数年を要することもあり、導入が遅れて初期費用がかさむおそれがあります。
さらに、ラマン分光分析計は他の技術と比べると感度が低く、通常は数百ppmまでしか測定することができません。つまり、ラマン分析は精度が高くないため、非常に正確な測定が求められる特定のアプリケーションには適していません。
ラマン分析が適する一般的なアプリケーション
ラマン分光分析計は、幅広いプロセス・アプリケーションに適しています。
ガソリン・ブレンディング
ラマン分光分析計は、ガソリン・ブレンディング・アプリケーションにおいて非常に有効であることが証明されています。オクタン価、沸点、リード蒸気圧(RVP)はすべて、ガソリン・ブレンディングにおいてラマン分光分析計を使用すると、効率的に測定することができます。迅速な応答および正確な分析が可能なため、例えば、サンプルの量を最小限に抑えながら、最終製品の最適なオクタン価を維持することができます。
天然ガスの品質測定
天然ガス中の炭化水素成分は、微量から混合物のほぼ100%まで変化します。天然ガス混合物中に不活性ガスが存在するとエネルギー密度が低下し、価値が下がる可能性があります。ラマン分光分析計は、従来のガス・クロマトグラフのように成分を分離する必要がないため、迅速かつ正確な天然ガス測定に適しています。
水素化処理および水素化分解
水素化処理や水素化分解のような精製プロセスにおいて、水素は極めて重要です。ラマン分光分析計は、すべての組成分析が必要な場合に適したソリューションです。圧力スイング吸着ユニットの後、リアルタイムでラマン分析を行うことで、水素が適切に除去されているか確認し、不適切な製品が下流に送られるのを防止することができます。さらにラマン分光分析計は、一般的に他の方法よりも高圧で測定することが可能です。これで流体がフレアーではなくプロセスに戻せる可能性が高まるため、オペレーション・コストを削減することができます。
掘削調査
オイルやガスの埋蔵量を調査する際には、掘削プロセスを最適化し、オペレーターの安全を守ることが非常に重要です。掘削速度を上げるには、従来の測定技術(ガス・クロマトグラフなど)では実現できなかった、より迅速な測定応答が必要です。ラマン分光分析計は、炭化水素分子と非炭化水素分子の両方を同時に測定することが可能なため、他の分析計を追加する必要性も減少します。
泥水検層
泥水検層とは、ボーリング孔の掘削中に地表に噴出する岩石片、泥水、ガスの測定および分類をすることです。泥水の組成や特性のモニタリングは、掘削プロセスを最適化し、爆発性の混合ガスが存在しないことを確認する上で重要です。ラマン分光分析計によるモニタリングを継続的に行うことで、オペレーターは十分な情報を得た上で意思決定を行い、効率を高め、安全性を維持することができます。
使用事例:製油所燃料ガス
ラマン分光分析計を使用して、製油所の燃料ガス(通常は天然ガスと回収されたフレアー・ガスの混合物)の化学組成を継続的にモニタリングするとします。
燃料ガスの品質は、回収されたフレアー・ガスの組成によって急速に変化することがあり、混合燃料ガスを使用する装置の効率低下につながります。具体的には、燃料ガス中の水素濃度が急上昇すると、ボイラーの火炎が不安定になる場合があります。
燃料ガス中の水素含有量を測定するラマン分光分析計の応答時間が短いため、燃料ガス混合物を継続的にモニタリングし、迅速に変更することができます。よって、水素を豊富に含む燃料ガスがプロセス装置に到達するのを最小限に抑え、プロセス効率を向上させることができます。
***
プロセス分析のニーズはオペレーション固有であり、ラマン分光分析計はそのニーズを満たすひとつの選択肢となるかもしれません。ラマン分光分析計が適しているかわからない場合、あるいはさらに詳しく知りたいという場合は、スウェージロックの専門スタッフ にご相談ください。お客さまのニーズを評価し、プロセス分析に最も効果的な場所を決定し、ビジネスに最も効果的な流体分析技術をご紹介します。
スウェージロック・リファレンス・センターでは、施設のあらゆる場所でのサンプリング方法を改善するためのヒントを紹介しています。プロセス分析計に関する次回コラム記事もお楽しみに。
関連コラム
サンプリングのニーズを分析する
プロセスの状態をモニタリングする際は、グラブ・サンプリングとオンライン分析のいずれが適しているかを判断する必要があります。チェックリストを活用して、オペレーションに合ったソリューションを見つけましょう。
分析精度の維持に欠かせない3つのルール
今回は、分析器の精度低下や、時間とコストの損失をもたらす、サンプリング・システムのパフォーマンスに関する3つの共通課題を克服する方法を紹介します。
分析計装システムで流体の状態を正しく表すサンプルを維持するためのヒント
分析計装システムで流体の状態を正しく表すサンプルを維持するのは容易なことではありません。 今回は、分析機器システムにおける主な問題を特定し、適切なサンプルを得る方法を紹介します。